約 550,019 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1842.html
1.武装神姫、里親募集中 珍しいこともあるものだ、と思う。 その晩僕は、会社の友人と共に行きつけのバーへとやって来ていた。 それ自体は別に珍しいことではない。 人数の関係で普段のカウンターではなくテーブル席にいることは、まあ珍しいことではあるが、ここではさほど重要なことではないので置いておく。 僕が珍しいと言ったのは、その友人の隣に座っている女性の存在だ。 グラスの中身を一口飲み、ちらり、と斜め前に座る彼女を見やる。 「んー? どうしたの、狩野クン~」 僕――狩野暁人というのが僕の名前だ――の視線に気付いたか、彼女が間延びした声で問い掛ける。 酔っているように感じられなくもないが、彼女の場合普段からこんな口調なので、それだけでは判別がつかない。 「いや……若山さんがここにいるなんて珍しいな、と思ってね」 彼女は若山成海といって、僕の同期の一人である。 僕との関係は、顔見知り以上友人未満といったところだ。 まあ、社交性が決して高いとは言えない僕にとって、会社の同期は皆同じような関係ではあるのだけれど……一人の例外を除いて。 「今日は特別に呼んだんだよ、成海がいた方が話も進みやすいだろうからな」 僕の正面に座ったその例外……失礼、山城大地が言う。 同期の中では、唯一かなり仲の良い友人と言える存在だ。 とはいっても、僕と彼の相性が特別良かったわけではない。 それは単に「とりあえず全員と仲良くなっておく」という彼の信条に基づくものであり、彼にとっては僕も含めた同期全員が友人である、というわけである……まあ、ここにも例外があったりするわけで。 大地の言葉に、隣の例外……つまり若山さんが頷く。 要するに彼らは男女の関係なわけで、友人ではない、ということなのだけど。 「話……ねえ。僕と大地だけじゃないって時点で、何かあるんじゃないかとは気付いてたけど」 言いながらまたグラスに口をつける。 カクテルグラスの中でゆらゆらと揺れる透明な液体……ギムレットという名のカクテルだ。 僕のお気に入りのカクテルの一つである。 今から五百年もの昔、西洋の男たちが新たな大陸を夢見て、こぞって帆船を航走(はし)らせた時代があった。 そんな中で生まれた、海の男達の酒……それがギムレットだ。 一人で飲みに来る時なら、この酒を傾けながら、延々とその時代に想いを馳せることもする……無論、今日はそんなことはしないけど。 「一体何の話だい?」 「まあ、そんなに焦るなって」 そう言いながら、大地が鞄の中をごそごそと漁る。 散々ちらつかせておきながら、何を言っているんだか……。 「狩野クンなら、きっと興味ある話だと思うな~」 ニコニコしながら若山さんがそんなことを言う。 それはまるで彼女自身にとって嬉しいことのような笑い方で、僕は余計に訳がわからなくなっていた。 「ほら……よっと」 大地が鞄から取り出したのは、縦三十センチ横二十センチほどの白いボール紙の箱だった。 何も書かれていない真っ白な箱……いや、右上にマジックらしきもので何か書いてある。 「ん……『MMS-ANG』? 何これ?」 「武装神姫だよ」 僕の疑問に即答したのは若山さんだった。 その顔は、やっぱりとても嬉しそうで。 「武装神姫……って、あの武装神姫?」 「他に武装神姫ってのがあるとは知らないが、その武装神姫だよ」 今度は大地に返された……そりゃ、そのくらいわかってるけどさ。 武装神姫の名ならよく知っている。 僕はシステムエンジニアの仕事をしているが、その関係で新しいテクノロジー絡みのニュースなんかは逐一チェックするようにしている。 四年前くらいだったか、その武装神姫が発表されたニュースも、記憶にはあった。 もっともその時僕が興味を持ったのは、前面に押し出されていた感情プログラムの方ではなく――その手のプログラムは僕の専門外であり、よくわからなかったというのも理由だ――駆動系、つまりハードウェアの方だったんだけど。 「まあいいじゃない……で、どうしたのこれ? 大地が買ったとか?」 それにしては梱包がちゃんとしてないけど、なんて続けた僕を、大地はからからと笑い飛ばした。 「違うって。まあ俺も興味がないわけじゃないけど……世話とか大変そうだし、何より成海がうるさいからな」 大地の言葉に、若山さんが何故か胸を張る。 「当然でしょ~。私というものがありながら、神姫の女の子にうつつを抜かすなんて、お天道様が許してもこの私が許さないんだから~」 中身だけとれば強気な発言なんだろうけど、間延びした声のせいで全然そうは聞こえない。 そんな若山さんの言葉に、大地は肩をすくめた。 「だってさ。自分は神姫持ってるくせに、理不尽だと思わねえ?」 「私はいいのよ~、女の子同士だし? それとも何、大地ってば神姫にヤキモチやくのかしら~?」 うりうりと大地の頬を突っつく若山さん。これはこれで、きっと仲がいい証拠なんだろう……僕にはよくわからないけど。 「へえ、若山さんは神姫を持ってるんだ。じゃあ、この神姫は若山さんの二個目ってこと?」 何気なくそう言った僕に、若山さんは真剣な顔で身を乗り出してきた。 普段のほわっとした彼女からは想像もつかない様子に、僕は思わずたじろいでしまった。 「狩野クン……悪気がないのはわかってるけど、その『個』って言い方は取り消してくれるかな? 武装神姫はただのロボットじゃない、それぞれが人格を持って『生きて』いるんだから」 どうやら彼女にとって、武装神姫という存在はとても大切なものらしい。 確かに、武装神姫が心を持っているというのは僕も聞いたことがあるし、ましてや彼女はその武装神姫と共に過ごしているのだ。 それを物呼ばわりされたら怒るのは当然だと気付く。 「ごめん、不用意な発言だったね。さっきの言葉は取り消すし、若山さんに……それから、若山さんの神姫にも謝る。本当にごめん」 そう言って僕が素直に頭を下げると、若山さんは一転してほわっとした表情になった。 よかった、許してくれるみたいだ。 「うん、ありがと~。狩野クンならわかってくれるって思ってたよ。それにうちのコにまで謝ってもらえるなんて、私感激だわ~」 すっかりいつもの調子に戻った若山さん、さっきの面影は微塵もない。 そんな彼女の様子に大地は苦笑いだ。 「それでね、このコのことなんだけど……残念ながらうちにはお迎え出来ないのよ~。神姫って世話するのに結構お金が必要でね。さすがに二人目は……」 若山さんがとっても悲しそうな顔でうなだれる。 どよーんという効果音が聞こえてきそうだ。 そっか、若山さんが買ってきたわけでもないのか……あれ、待てよ? 「……あれ、じゃあこのコは誰が買ってきたの?」 「買ってきたんじゃなくて、うちの会社のものだったんだよ」 大地が僕に言う。うちの会社……って、え、うち? 「うちの会社、そんなこともやってるんだ?」 「まあな。ほら、うちの会社って『何でもお任せください』がウリだろ? ま、武装神姫に関して言えば、やってたってのが正解なんだけどな」 僕達が勤めている会社『PPFコーポレーション』は、今大地が言った通り何でもやってるっていうのがセールスポイントの一つにある。 ゆりかごから墓場まで、って言えばわかりやすいかな。 大地曰く、その一環で武装神姫の流通ルートにも介入しようとしたらしいけど、さすがにその手の専門企業には敵わなかったらしい。 そして現在では事業から撤退、結構な数の武装神姫が在庫として残ってしまったとか。 大多数は関係社員が引き取っていったらしいけど、この神姫だけ最後まで残ってしまい、いよいよ廃棄処分かというところを、若山さんが見かねて引き取ってきたそうだ。 「そんなことがあったんだ、全然知らなかったよ」 「お前なあ、少しは社内の他のことも気にかけろよ? まあ、お前んとこは突出した専門分野だからしょうがねえのかもしれないけどさ」 僕の言葉に大地が苦笑する。 そう言われても、自分に興味のないことには全く関心がいかないのが僕なんだから仕方ない。 「そっか、このコこのままじゃ行く場所がないんだ」 言いながら、白い箱をそっと撫でる。 この中にどんな神姫がいるのか知らないけれど、心を持てる可能性のある者が、その機会すら与えられないままに消えていくしかないのは理不尽だと思う。 それは殺人と同じなんじゃないか……そんな考えが頭をよぎった。 唐突に、がばっと手を握り締められる。 何事かと顔を上げると、目をうるうるさせた若山さんが両手でがっちりと僕の手を掴んでいた。 ちょっとだけ、痛い。 「そうなの~! 可哀想なのよ~! こんなのってないわよね~、理不尽だと思わない~?」 今にも泣きそうな顔で、僕が考えていたことと似たようなことを言う。 もしかして僕の心を読んでたんじゃ……なんて、そんなわけないか。 それはさておき、確かに可哀想だとは思うし、何とかしてあげたいとも思う。でも、僕に出来ることなんて一体何が……あ。 「もしかして……僕にこのコを引き取ってほしいってこと?」 鈍い鈍いと言われる僕だけど、さすがにここまで条件が揃っていれば気付く。 僕の言葉に、大地は大きく一回、若山さんはぶんぶんぶんと三回、それぞれ首を縦に振った。 「そういうこと。いきなりの頼みで悪いとは思っちゃいるが……引き受けてもらえないか? これは成海だけじゃなく、俺からの願いでもあるんだ」 大地の目は真剣だった。 大地が神姫に対してどんな想いを抱いているかはわからないけど、少なくともこの言葉が本気であることは間違いなかった。 「お願いっ! お願いします~っ!」 若山さんが両手で俺を拝んでくる。 何もそこまでしなくても……と思ったけど、彼女もそれだけ本気だってことだろう。 気付けば大地も僕に頭を下げている。 正直言って、僕は武装神姫にさほど興味はない。 そして、興味のないことは、いかに周りがもてはやしてても手を出さないのが僕の信条でもある。 とはいえ、こんな事情を前にして、しかも二人からこんなに必死にお願いされた上で、それを無下に出来るほど、人として腐ってはいないつもりだった。 「二人とも、顔上げてよ。大丈夫、このコは僕が引き取るよ」 僕がそう言った途端、再び若山さんががばーっと僕の手をとり、ぶんぶんと振り回す。 いや、だからちょっと痛いってば。 「ホント!? よかったあ~、このままじゃ私心配で夜も眠れないところだったよ。ありがとう~!」 そこまで感謝されるとは思ってなかったので、僕は少々戸惑ってしまう。 その一方で、彼女がどれだけ神姫のことを大事に想っているかが、僕にも伝わってくるのを感じた。 大地はやれやれといった感じでソファに深く腰掛けているが、その表情には間違いなく安堵の色が見えた。 彼女のこともあるし、やはり大地も心配していたんだろう。 それから僕は、二人――主に喋っていたのは若山さんだけども――に神姫のことについて色々と教えてもらった。 仕事柄、メンテナンスとかそういった類の話は問題なく理解できたけど、やはりそれだけで万事オーケーというわけでもないらしい。 特に神姫とのコミュニケーションは僕にとって大問題だった。 「神姫も心を持っているんだから、細かいこと考えずに、普通に人と接するのと同じように接してあげればいいんだよ~」 なんて、若山さんは言っていたけれど、人付き合いが得意とは言えない僕にとってそれが一番の気がかりであるということに、彼女は気付いてないようだった。 やれやれ、これからどうなることやら……。 こうして僕と神姫との共同生活が始まることになった。 家までの道を歩きながら、僕は漠然とした不安とちょっとした期待を、同時に感じていた。 TOP 2.目覚めは猫の鳴き声で
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/114.html
【なぜなに武装神姫、そのさん】 「さて今週の武装神姫の時間です。ハイテンションから一気にローテンションになるとその後のリハビリが大変なみさにゃんです」 「ぼへー……」 「なんか呆けてるわねぇ、ねここ。とにかく今回のお題はこちら」 『リーグって何?』 「これはかなり独自設定で申し訳ないんだけどね。 実は武装神姫は来年からネットでバトルサービスを始める事になっているの。 でも小説の舞台は2036年で、来年からスタートするバトルとは多分風味が違うんじゃないかってお話。 それにバトルサービルの詳細が余り出てこないので、それを元にすることも出来ない」 「それでオリジナル設定なのね、みさにゃん」 「そうなの。だから便宜上、実力に応じたランク分けをして3つのリーグを設定したと言う訳。 やっぱり野良試合だけじゃつまらないしねっ☆」 「本音はそこかにゃ……」 続く 上へ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/657.html
働いた“妹”の、心意気に触れて “鬼の霍乱”という言葉の通り、誰しも意外な行動を見せる事がある。 私・槇野晶とて、それは例外ではない。まあ、その……なんだ、有無。 なんとも情けない事だが、数年ぶりに風邪を引いてしまったのである。 かといって、店を空けるわけにも行かない。これでも一応、客商売だ。 「こほ、こほっ……店はどうなっている、葵……っと、客が来たか」 「いらっしゃいませですの、中野さん♪今日はマイスターの代役で」 「お、アルバイトの……あ、あー。君ら名前が紛らわしいからなぁ」 時刻は既に夕方。こっそり寝床を抜け出して様子を見に来た所で、 丁度接客を始めたロッテのHVIF……葵の姿を見る事となった。 今日がロッテの“当番日”だったのは、病床の私にとって幸運だ。 たまに店番をロッテに頼むが、今日は葵に一日中頼む事が出来た。 一番私との付き合いが長い故に、業務は大抵こなせる。だが……。 「葵ですの。晶お姉ちゃんの三女!……それで、第四弾の事ですの?」 「ああ、うんうん。ロッテちゃんに伝言頼んだんだけど、神姫だしね」 「……ですね、“神姫の店番”がちょっぴり不安なのは分かりますの」 今の常連客・“バーコードの”中野との会話通り、神姫が一般店舗の 店番をし、決済までこなすという状況に抵抗感を持つ人はまだ多い。 私の必死の説得とロッテの人柄により、常連は大抵黙認してくれる。 そう……黙認だな。公然と認めづらく感じる人間の方が、多数派だ。 流石に面と向かって言い放つ愚か者が居なくとも、真相は変わらん。 「うん。ロッテちゃんは真面目で良い娘だけどねぇ、葵ちゃんみたいに」 「そ、そんな褒めないで下さいですの!ロッテさんだって、困りますよ」 「ははは。まあおじさんのジョークだよ、ジョーク。で、第四弾ある?」 だがロッテは己の置かれた状況をよく理解している。それ故にこそ 店番中に訪れる常連には、極力誠実を以て応える。神姫であっても 信用があれば取引出来ると証明する為に。だが、限界は存在した。 神姫達が“独自性”を持つとは言え、人間には心理的な壁がある。 その点HVIFは、現在“垣根を取り払う”役割を果たしている。 「第四弾の内二つはハイブリッド生体パーツを利用したタイプですの」 「そうらしいねぇ。なんでも、華と種なんだってね?で、もう一つが」 「精密砲撃に強いフォートブラッグタイプですの。売れてますよっ♪」 「ああ、これこれ!まずはこれが欲しかったんだよ、何処も品切れで」 本来なら“肉の躯”が無くとも、この様に商談が出来ればいいのだが…… 流石にその様な変革を全員に求めるには、未だ人類は幼いと言えるのだ。 故にこそフェレンツェめがこの様な物を作り、私が実験に協力している。 とは言え人間と寸分違わぬ姿をしていても、葵の本質は“神姫”である。 ……正体を中野が知った時、今と同じ様に気軽な商談が出来るかどうか。 「じゃあ、これとこれとこれ……素体は、一人分でいいや。お勘定ッ」 「毎度有り難うございますですの~♪お値段は──────円ですの」 「電子決済でお願い……ロッテちゃんにはこれで何時も頼むんだけど」 「それは大丈夫ですの、わたしも手順はしっかり覚えていますから♪」 実に嘆かわしい限りではあるが、急速な改革が出来る問題でもない。 神姫を扱う側として、今は誠意あるオーナーを増やすしかないのだ。 何時かもっと大胆且つ能動的なアクションをしてみたい物だが……。 「それじゃあこれで帰るか、女房煩いし。マイスターに宜しくね」 「はい、申し伝えておきますの。有り難うございましたですの♪」 「はーい……それにしてもあの娘、ロッテちゃんに雰囲気が……」 ……中野め、伊達にこの店に通い詰めている訳では無さそうだな……。 気付かれる事はないと思うが、こういう局面は何時でもヒヤヒヤする。 さて、客足も減った様だし寝床に戻るとしようか……しまったっ!?! ──────思った時には、既に実行しているッ!地下に響く轟音ッ! 「きゃうっ!?……く、痛ぁ~っ……」 「ふぇ?お、お姉ちゃんなんでっ!?」 迂闊だった。纏っていた毛布に足を取られ、私は倒れてしまった。 階段を無様に転げ落ち、下階の床に突っ伏す羽目となってしまう。 幸い精密機器の眼鏡は外していたし、毛布の御陰で怪我もないが。 なんとも見られたくない姿を、葵に見せてしまった……無念、だ。 「葵がちゃんと店番出来ているか、見たくなって起きた……ケホッ」 「ダメですの!お姉ちゃんの躯はHVIFと大差ないんですから!」 「葵お姉ちゃん、マイスターが布団に居ない……って居たんだよッ」 「マイスター何してるんですかッ!あんな熱あったのに、もう!?」 咳き込んだ所で、充電から目覚めたアルマとクララにも見つかった。 直後アルマは力強く、私の口に体温計をねじ込む。測定はクララだ。 乾いた電子音が数分ほどして鳴り響き、体温を示した……いかんな。 「38.4度……マイスターは普段体温高いけど、これは異状」 「体格の所為もあって、体温が高いですからねマイスターって」 「アルマ、変な事を言うんじゃない!……ケホケホケホッ!!」 「ああもう!ほらお姉ちゃん、ベッドに運びますの……んしょ」 深く咳き込み倒れ伏す私を、葵が躯の全面で抱きかかえ運んでいく。 ……ちょっと待て、これは俗に言う“お姫様抱っこ”ではないか!? 熱っぽさもある所為か、彼女の仄かな体温が優しく感じられる……! アルマとクララの、駆動系の放熱も感じられるが……やはり暖かい。 「あ、あの!?その、えっと……あのな?葵ッ……えっと」 普段有りえない状況故か、或いは不安に満ちた為か。言葉が出ない。 病気の人間を運ぶのは、“殻の躯”では為しえぬ事の極北だからな。 こんな事で報告要素をゲットするのは、なんとも情けない話だが…… でも今だけは、彼女らの厚意に甘えようと思う。それが私の義務だ。 「す、すまないな葵。いつもいつも世話を掛けて……アルマとクララも」 「何言ってるんですのおとっつぁん、ですの♪大事なお姉ちゃんですし」 「そう、大事なマイスターだから。病気の時はじっとしててほしいもん」 「本当にダウンしちゃったら、皆心配しちゃいますよ?ホントにもうッ」 ──────姿形が違っても、誰かを思う“心”は変わらないよね。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2628.html
「はー、すごいな。これは」 駅前の近く、人通りが多い道には大小様々なお店が建っている。 そこにあるゲームセンターに来てみたが、色んな人と神姫たちがごった返していた。 見渡せば、数個の筐体。その筐体内でバトルをする神姫たち、それに指示を出したりしているオーナーがいたり。隅の方には休憩所のような所があり、神姫を持ったオーナー同士数人で談話している人たちもいる。 「ゲームセンター内は草バトルでさ、公式の武装でもいいし、レギュレーション判定ギリギリのカスタム武装もよし。自分で作れるなら自作武装の人もいる。フリーバトルっていうルールだな。 実力はピンキリで、やり始めた初心者から、すんげえ強い神姫とそのオーナーもいたりする。草バトルだから、ランクとかも気にしなくていいし、バーチャルだから自分の神姫が怪我をする必要もない」 説明どうもありがとう。ミスズがカンぺを出しているのが見えているけど。 「ここのゲーセンでは鬼みたいに強いオーナーは見ていないけどさ。俺はとりあえず、だれか暇そうだったら、適当にバトルしてくれって言ったりしている」 「いきなり、知らない人と? 僕だったら無理だな」 高校生ならゲームセンターによく来るとは思うけど、僕はうるさい所はあまり好きじゃないし、ゲームセンターなんて久しぶりに入った。 小学校の時、父さんに連れられて、入った記憶しかない。その頃はゲームセンターなんて、テレビゲームの筐体ばっかだったのに、今じゃ、それより数段大きい筐体だ。 時代は進化しているんだな。 ここも人間用のゲームだけではなく、神姫専用のゲームとかもあるみたいだし、ガラの悪いお兄さんお姉さんもあまりいないみたいだ。 「この前来た時は、可愛らしいオーナーがいましたよね」 「ああ、O大女子高の制服を着てた子か。バトルを見てても結構な強さだったな」 「それが話しのストラーフの人?」 「いんや、その子ではなくて。俺が見たのは大学生っぽくて、ラフな格好してて、かっこいい女性って感じの人。俺としてはそっちより、その美少女の子が好みだ。うん」 淳平にとってはそこが一番重要なんだね。 ミスズは胸ポケットから冷たい視線で淳平を見ていた。はっきり言って怖い。 「う、ゴホン! あー、それよりも、僕はそっちのストラーフ使いが目的なんだ。いるか、どうかわかる?」 このままでは淳平の命が危ないという事で、早々に話を切り替えた。 「ああ、そういえば、そうだな。ちょっと探してみようぜ」 淳平と一緒に筐体を見て回ってみる。立ち止まって、内一つの筐体内ではバトルをしている。ミスズと同じような天使型アーンヴァルの神姫と猫型マオチャオの神姫が互いの武装を使って戦っていた。 じっくり戦闘風景を見てみる。 ゴーストタウンらしき場所。開けた場所で二人の神姫が対峙していた。 ―――― アーンヴァルが手に持った銃で弾幕を張っている、それを素早い動きで避けて移動しているマオチャオ。と、突然、弾の雨が止んだ。 弾切れと気付いたマオチャオが電光石火、ものすごいスピードでアーンヴァルに迫っていく。 「にゃー!」という可愛らしい声を出しながら、右手の爪による攻撃を繰り出そうとしていた。声はそれでも表情は勇ましく、あんなスピードでの攻撃を受けたら、相手だってひとたまりもないだろう。 しかし、真っ直ぐによる攻撃行為。相手のアーンヴァルはそれを冷静に見、構えている。手に持っていた銃を捨て 当たると思った寸前、軽く横に身体を反らし、背中に見える機翼ロケットからの瞬間噴射。それにより、攻撃は寸でのところで見切られ、勢い余ったマオチャオはアーンヴァルのいた後方に行く。 マオチャオは足により勢いを殺しブレーキをかけた。だが、それがいけなかった。 アーンヴァルは一瞬止まったマオチャオを隙と判断し、前傾姿勢になりロケットを、今度は全力で噴射し肉薄。腰から取り出した光学の剣で背中に向けて横一線に切り裂いた。 マオチャオの姿はモザイク処理されたように姿を消していった。 ―――― あー! くそ! という悔しそうな声が筐体の左側から聞こえた。マオチャオのオーナーの声だろう。 (なるほど。これが神姫バトルなのか) 漫画やアニメ、ゲームなどで起きることが、こうして15cmの人形たちが現実に起こしている。迫力があって、臨場感があって、こんな遊びなら誰もが夢中になれるだろうな。 「どうよ、神姫バトルをまじかで見た感想は」 観戦していた僕を淳平が見ると、聞いてきた。 「うん。これなら皆、神姫同士を戦わせたがるのもわかる気がするよ」 「だろ。そう思うよな!」 戦っている神姫たちも生き生きとしていた。だけど、シオンのような戦いを好まない神姫もいるという事を知っていると、なんか複雑だ。 「それより、あっちの方に人だかりができてる。多分そこだろうよ」 「人だかり?」 少し歩くと、向こうには、一つの筐体にたくさんの人が集まっている。これがみんなギャラリーなんだろうか。 「もうすぐさ、試合が終わりそうみたいだ。だから、早く早く」 「ちょ、ちょっと」 僕の腕を引っ張って、人だかりの中に淳平は強引に進み出ていこうとする。もう片方の手は、ミスズのいる胸ポケットに手を置いて苦しくないようにしているのが見える。 僕は苦しかったが、なんとか、バトルが見える位置に来れたみたいだ。 「ほれ、あれだ」 「あ、うん」 どれどれと軽い気持ちで見てみたが、フィールドは異様な雰囲気を醸し出していた。 そこは荒野のフィールドで何も障害物がないステージ。広い空間をいかに使うかという戦略が考えられそうだが。 「……なんか、一方的だね」 「前も、こんな感じだったぜ」 ―――― フィールドにはボロボロになりながらも、ハンドガンを撃ち続けている兎型ヴァッフェバニーの神姫と、バイザーを付けていて真っ赤な大剣を逆手に構えている悪魔型。 そのストラーフの真っ黒い装甲にはキズが付く様子はない。 ヴァッフェバニーが撃ち続けてはいるが、当たってはいない。いや、正確には大剣を盾にして、ストラーフ自身にはまったく当たっていない状況だ。 ヴァッフェバニーの表情は切羽詰まっている。無駄弾を撃ちながらも、戦況を変える一手を考えていそうだが、実際問題打つ手がなさそうだ。頼みのオーナーからも指示は出てきていない様子。 「……面倒だな」 そうストラーフは呟くと、ブンっと大剣を順手になおし薙ぐ。 あんな重そうな大剣を使い、しかも片手で扱っていることにも驚いたが――振るった直後に「ぐあぁ!」と声をあげるヴァッフェバニー――あのストラーフ、弾を大剣ではじき返してヴァッフェバニーに当てるという芸当をしでかした。 跳ね返った弾が肩の装甲に当たり、銃を落として、おもわず片膝をつくヴァッフェバニー。それに対して、上段に構えてゆっくり近づく、赤い大剣を持つ悪魔。 「終わり……」 大剣を上から下へ、思いっきり振り下ろす。 口元だけが見えるストラーフは退屈そうに言葉を漏らし、それで決着はついた。 『WINNER イスカ』 ジャッジはイスカというストラーフの勝利を宣言した。 ―――― 「あれで、何連勝だよ?」「さぁ、5連勝ぐらいじゃね?」「いや、もっとやってるだろ。しかもどれもワンサイドゲーム」「うわぁ、俺ら、よええ」「馬鹿言え。あれが強すぎる」 ガヤガヤとそんなことが周りから聞こえてくる。連戦をしていて、どれも同じような結果に終わっているらしい。 「いないのー? だったらもういいかしらー」 ストラーフ側のオーナーブース。そこから、ジーパンに長袖パーカーの女の人が周りに声を上げて聞いてきている。見える感じには茶色の髪でうなじまでのショートヘアー、顔は凛々しく同姓にモテそうな顔だなと思った。 「あの人がそうなんだね、淳……平……? あれ、どこに?」 さっきまで、会話してて、試合見てたのにいつの間にか消えている。周りを見てもたくさんの人ごみの中。見つけようとしても、見渡せる位置じゃないと僕の背では見つけられそうにない。はぐれたのかなと心配になったその時。 「はーい! はい! はい! 俺、やります!」 あ、あんな所に。 思いっきり手を天井に届かせんばかりに上げ、周りの喚声に負けないぐらいに声を張っている淳平が。周りからも新しい挑戦者に感嘆の声も上がっている。 それと、恥ずかしいのか、それを肩から止めようとしているミスズ。 ストラーフ側の反対方向。さっきまでヴァッフェバニーのオーナーがいた場所に淳平がいた。 「……はぁ、わかったわ。これで最後にしてちょうだい」 ため息をもらし、席につくストラーフのオーナー。元気さに圧倒されたのか、それとも連戦に疲れているのかはわからない。あれ、神姫オーナーも疲れるのかな。疲れるのは神姫じゃあ、いや、指示を出して逐一戦況を見るオーナーは疲れるだろう、と僕が余計な事を考え込んでいたら、ポケットから携帯のマナーモードでのメール着信振動。 確認すると。 ――ちょっと、バトってくるわ―― 「勝手だ!」 そして、僕が初めて見る淳平とミスズのバトルが始まった。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/643.html
手織り、羽織り、慈しみを込めて “♪梅は咲いたか、桜はまだかいな”等という詩もあるが、暖冬傾向が 進んだ2037年現在は、冬は短い物である。東京ともなれば尚更だ。 という訳で折角の冬服も出番が多少減ってきた今日この頃である故に、 HVIFと私用の春物衣装を買い、私・槇野晶はアキバに帰ってきた。 「うむ、今日も可愛い服がいろいろあったな……今帰ったぞ、茜!」 「あっ!おかえりなさい、お姉ちゃん。うんと、えと……収穫は?」 「見てみるといい。今年の春物新作は、可愛らしくも動きやすいぞ」 最初に出迎えてくれたのは、住居フロアで編み物をしている茜だった。 そう、今日はアルマの“HVIF当番”の日なのだ。人前に出る行為を 率先して行わないアルマ……茜は、当番の日を部屋で過ごす事が多い。 無論買い物などで必要なら出かける事もあるがな。それにしても……。 「にしても茜や、お前は家庭的な事をしている雰囲気が似合うなぁ」 「ほ、ほえっ!?なっ、何を言ってるんですか、お姉ちゃんッ!?」 「いや、“姉”の私が言うのもなんだが……本当に、似合ってるぞ」 落ち着いた色合いのジャンパースカートを身につけて、毛糸と編み棒を 手に楽しそうに何かを作る、あるいはエプロンをまとって台所に立つ。 元より神姫に備わる“創造性”という物を確信する私ではあるのだが、 こうして楽しげに何かを行う茜を見ると、その実在は一層確信出来る。 HVIFの可能性を垣間見る一コマとも言えるが……それ以前にッ!! 「そ、そんなぁ……お姉ちゃんに言われると、恥ずかしいです……」 「……くぁぁぁぁーッ!?た、たまらんっ!!茜、可愛いぞッ!?」 金砂の髪を揺らし、白い頬を染めて照れる……紅蓮の眼を持った少女。 “神姫”だという意識はもちろん私の中にある。だが、だからこそッ! “殻の躯”から“肉の躯”に転じた時のインパクトは、未だに高い!! たまらず私は茜を抱きしめてやる……こら、貴様見るなあっち行け!? 「……マイスター、昼間からドキドキしすぎなんだよ?」 「きゃああっ!?はえ、え……い、一体いつからっ?!」 「しょうがないですの、インターフェイスですからっ♪」 「え゛!?ろ、ロッテにクララ……今まで何処にいた?」 ……貴様の所為で、ロッテとクララに見つかったではないかッ!? こほん、それはともかくだ……彼女らは“ちっちゃい物研”謹製の 洋風クレイドル……またの名を神姫ハウスだ……から、出てきた。 その両手には“フェンリル”と、“斬鋼糸”を改良した“ヘル”。 どうやら、隣にある専用トレーニングブースで特訓していた様だ。 「……いつからって、最初っからだもん。ね、ロッテお姉ちゃん」 「はいですの。マイスターが帰ってきた時から、ず~っと……♪」 「う゛、うあぁぁぁぁ……声くらい掛けてくれぬか、頼むからッ」 顔から火が出そうな程、私は真っ赤になる。茜の方は、茹で蛸も同然。 対してクララは普段通りの冷静さ、ロッテは愉快そうに微笑んでいる。 完全にしてやられた、という事か……だが、本心故どうしようもない。 だからこそ……私はそっとロッテとクララも抱き寄せて、懐に包んだ。 「マイスター?なんでわたし達まで抱きしめちゃいますの~?」 「……だって、インターフェイスの茜にだけする事ではないぞ」 「ロッテお姉ちゃん笑ってる。ひょっとしたら確信犯なんだよ」 そう言うクララも、僅かに微笑んでいる。これは……ヤキモチなのか? “神姫の心”が人と変わらぬ物である以上、そういう感情は当然ある。 そう、HVIFを使っている茜もまたこうして、私の背中に……って! 「うわああっ!?茜何をしてるかっ、背後から、そのっ!」 「……お姉ちゃん、あたしだっているんですからね……?」 柔らかい感触を、背に覚える。“殻の躯”でも撫でたりする時は、 緊張する部位だがこう私と変わらぬサイズになってるとなぁッ!? その後、茜を皆で宥めて離れるには三分ばかりを要した……ふぅ。 「でも、アル……じゃない、茜お姉ちゃんは帰りを待ってたんだよ」 「なんだと、クララ?何か私、忘れ物でもしていたのか……茜や?」 「え、ええっと……今日の成果を、お見せしたいなって思って……」 そう言うと茜はごそごそと紙袋から、一つの人形を取り出して来た。 それは可愛らしいクマの編みぐるみ……をくっつけた、ストラップ。 神姫の“殻の躯”では作れぬ、とは言わないが重労働なのは確かだ。 真直堂みたく、複数人の神姫で一斉に作るという訳にもいかんしな。 そう言う意味でも、HVIFの利点がまた一つ分かった。良い事だ。 「……これは、茜が作ったのか?その編み棒と毛糸を使って」 「後、市販のストラップと綿にビーズも……楽しかったです」 「ありがとうな、茜。楽しい事とはいえ、私の為になぞ……」 あ、という息を呑む音が聞こえる。私が、彼女の手に口を寄せた為だ。 流石に正面切ってキスが出来る程、私は開けっぴろげな性格ではない。 だが感謝の心は示したかった。それ故に……こういう妙な行動となる。 自分でも笑ってしまうが、誠意だけは何時でも大事にしたかったのだ。 余談だが茜の、白魚の様な指は……とても滑らかで清く、暖かかった。 「──────ま、まままま……じゃない、お姉ちゃんッ!?」 「さあ、夕食を作るぞっ!茜や、手伝ってくれぬか?その後で」 「え、ええっと……あ、そうですね、お洋服!……喜んでっ♪」 ──────姿形は違っても、心通わせれば、全てが楽しいよね。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/503.html
前へ 先頭ページへ 次へ 交戦~十五分経過 1236時 11番コンソールルーム ディスプレイ上方に旅客機のアテンションコールのような「ポーン」という音とともにテロップが出て、マスターは大変なことになっている戦闘画面からなんとか視線を引き剥がして見た。 《レッドチーム、「航空支援カード」四十枚使用》 さらにカードの詳しい効果が続けて表示される。 《使用時の戦況に合わせた航空機を一枚につき十機召喚。効果発動までにディレイ五分。航空機は使用者の指揮下に入り、撃墜されるか燃料が尽きて墜落するまで稼動し続ける》 一度の使用枚数にも参ったが、優遇されすぎているのではないかとも思えるその効果にもマスターは度肝を抜かれた。思わず椅子を蹴って立ち上がりそうになった。 燃料切れで使い捨てるやつなどほとんどいないだろうから、つまり、撃ち落とさなければ次のラウンドも次の次のラウンドもあの吐き気をもよおすような数の戦闘機は延々と出撃し続けるのである。 四十人ものオーナーが、あらかじめ示し合わせたのか偶然に同時使用したのかは知らないが、多数対多数戦における物量の優位性を忠実に実行したのであった。そのおかげで、拮抗状態であった戦力差が、三倍というほぼ絶望的な状態にまで開いてしまった。 戦力の三割を損耗した時点で全滅、とはよく言う。というのも、残った戦力に相手側の三割り増し分が追加投入され、ドミノ倒し的にやられていくしかないからである。 たとえば十対十ならそれぞれタイマンが張れるから勝率は五分五分。が、十体七なら七の一人に十の三人が攻撃することになる。さらに続けて六の一人に十の四人が、五の一人に十の五人がかかるという風に、七側は一人頭相手をしなければならない戦力がどんどん倍加する。逆に十側はどんどん楽になる。どんどん袋叩きになってゆく。ここまで来るともはや雪崩である。十側の損耗を考慮しても七側の負けは揺るがない。 今がまさしくそんな状況だった。ちょっと違うのは、戦力は損耗したのではなく追加されたということだ。飲めねえやつが飲み会でビール瓶一本を担当されてこれならまあなんとか大丈夫だろうと安心していたら予定変更でさらに二本まわされてきちまった、とはケンの言葉だが。 「その三本のビールを処理するにはどうすればいい?」 『決まってんじゃねえか』 ケンは即答した。 『瓶を叩き割りゃアいいんだよ。ブチ切れてな。タマは存分に付いてんだろ?』 まさしく、とマスターは腑に落ちた。何も素直に全部飲み干す必要は無いわけだ。 ブルーチーム側も航空支援カードを使い始めた表示。が、発動までに五分の間がある。 その五分を持たせる。 少なくともたった一ラウンド目で制空ポイントをむさぼらせるわけにはいかない。それは皆同じ気持ちだ。たぶん。 マスターはサイドボードをセミアクティブにした。 ◆ ◆ ◆ BGM Contact(エースコンバットゼロ ザ・ベルカン・ウォー オリジナルサウンドトラックより) 1237時 諸島上空(VR空間) 無数のミサイルがマイティたちのすぐ上を通過した。 爆発。 オレンジ色の火の玉と散らばって墜ちてゆく被撃墜者の破片がある意味爽快な空になった。 大破を含め、戦闘不能、三十三体。生き残った手負いの神姫が基地へ下がってゆく。修理を経て戦線へ戻るのはかなりの時間を食う。戦力差がさらに開く。そんなことに考えをめぐらせている暇はしかしマイティ達には無かった。アラートが止まない。 通過したミサイルの何十発かがくるりと向きを変えてこちらに向かってきたからである。エルゴ飛行隊に落伍者はいなかったが、これでは間もなく変態は崩れて散り散りばらばらになってしまう。そうなると撃墜の危険は増す。 もっとも重武装のバーニング・ブラック・バニー、B3(ビーキューブ)が出遅れた。本当にどこかのSFの空中フリゲート艦のような巨体である。ヴァッフェバニーの本体は、船首で守り女神みたいに張り付いている。シエンのクリムゾンヘッドなんぞ目じゃない。そもそも、あの装備がメインボードに入るのだろうか? 無理やり入れたに違いない。なにしろハンガーではパーツごとに呼び出してその場で組み立てていたほどである。 エレベータには大きすぎて乗らないのでわざわざ後ろから外に出たのだ。 最初の一撃をよくも回避できたものである。 『うむむむむ。これはマズい。非っ常ぉーにマズいぞビーキューブ』 チタン合金製筋金入りの軍事オタクでエルゴでは有名なオーナーが、非常にわざとらしくうなった。 《イエッサー》 無感動にB3は答える。 『この思わずちゃぶ台を三回転半させてしまいそうなほどなマズさをほっぺたが落っこちそうなくらい美味くしろ。飛行隊に貢献するのだ』 《イエッサー》 修飾の多い命令が聞こえたかと思うと、突然B3の艦体中央両舷から何発もの迎撃ミサイルが飛び出した。それも弾体を直接ぶつけるのではなく、鋭利なワイヤーのネットをミサイル前方に展開する迎撃能力の高いタイプである。 空中にいくつものくもの巣が張られ、引っかかったミサイルがまとめて爆散した。だがすべてではない。 『ビーキューブ、お前の巨体を盾にするのだ。ミサイルの四、五発など蚊ほども痛くはないはずだ』 《イエッサー》 B3は急制動をかけ、その艦体を横倒しにする。巨大なスノーボードがブレーキをかけるような動き。 ボボッ、ボッ、ボッ! 左舷装甲にミサイルが命中する。が、B3の損傷はほとんど無い。 それでも打ちもらしがあり、数発がマイティたちのところへ殺到した。 B3は良くても自分たちは一発当たれば致命傷である。避けられない! 『マイティ、お前は戦闘機じゃないはずだ!』 唐突にマスターの怒号が来る。 「くう・・・・・・っ!」 両足を前に投げ出し、マグネティックランチャーを反転させ、前推力を進行方向に噴射。 そう、戦闘機にはできない急制動が、神姫にはできるのだ。 「やあっ!」 上半身をめいっぱい反らして、両腕の拳銃とライトセイバーのレーザーガンを撃ちまくる。 自分のほうに向かってくるミサイルを全部撃ち落とす。 マイティのやり方を見た飛行隊の面々も気がつき、同じようにミサイルを迎撃した。 避けるだけが能ではないのだ。 ここにおいてはただの飛行機よりも高性能なメンバーが勢ぞろいしているのである。 戦闘機など敵ではない。 《ヘッド、アームズ、ネーバル、反撃に転じます! チェスト、レッグスはビーキューブに集結して援護を。以後ビーキューブを前線基地に任命します。ビーキューブ、いいですね》 シヅが勇ましく指令する。 《イエス、マム》 オーナーに答えるのと同じようにB3は言った。 はるか上空を南に向けてレッドチームとその戦闘機が進軍している。目の前にいる混乱したブルーチームしか目に入っていないようだった。自分たちは撃墜されたものとしてみなされているらしかった。 《あいつら、もう勝った気でいる》 シエンの忌々しそうな言葉に、スノーボウが応じた。 《では、教育してやりましょう。アームズ、戦闘上昇》 アームズフライトが先んじて飛び立つ。この飛行隊で最も腕の立つ四体が、揃って雲を引いている。 《私たちも続きましょう》 《最高のタイミングで横あいから思い切り殴りつけてやるの!》 《ねここちゃん、それってヘルシングね!? あちしも好きなのよう。特にアンデルセン神父がねーえもうダンディで最高で強力で若本で・・・・・・》 《隊長、マンガ談義は後でいいから》 《《あとでいーから!》》 ねここの言葉にチェシャが口うるさく反応し、ネーバルのメンバーがたしなめるのをバックミュージックにして、マイティたちも戦闘上昇。 『ミサイルは存分に撃っていい』 「マスター、でも・・・・・・」 『一時間気が済むまで撃ちまくれるくらいのストックはある。とにかく、五分持たせるんだ。五分後にこちらも援軍を出す』 マイティはサイドボードに入れられたオフィシャルの箱を思い出した。あの中にはありったけのスティレットミサイルが詰め込まれているに違いなかった。リアルバトルなら消耗品のミサイルも、バーチャルならば何度でも使える。たとえサイドボードにある分をラウンド内に使い切っても、空母に帰るか次のラウンドには満タンになっているのだ。 「了解!」 ロックオン可能距離外であったが、マイティはミサイルを撃った。マグネティックランチャーも連射モードで撃ちまくった。あれだけ密集しているのだ。おまけにこちらからは腹を見せているも同然である。撃てば当たるとはまさにこのことだった。 セミアクティブになったサイドボードから次々とミサイルが翼に「生えて」くる。 マイティは撃った。敵編隊に衝突しそうになるまで。 BGM Comona(エースコンバット04 シャッタードスカイ オリジナルサウンドトラックより) 1240時 反撃 真下から殺到した予想外の攻撃に、レッドチームは反応が遅れた。その数瞬の遅れが大打撃に繋がった。 本当に不思議なくらい誰ひとりとして気がつく者はいなかった。神姫もオーナーも。みんな目の前の大戦果に見とれて、弱った相手にさらに打撃を与えようとこぞって前だけ見つめて前進していたのである。周囲を警戒するはずのエリント装備の神姫も、ほんのしばしの間だけその役目を忘れていた。 エルゴ飛行隊の位置取りは、偶然が混ざりながらも群集心理の隙を突いた見事な戦法であった。 油断だらけのレッドチームめがけ、ミサイル一斉発射の報復とばかりの、銃弾、砲弾、レーザー、ミサイルの雨が「下から」降ってきた。 《うあああっ!?》 《攻撃、真下から攻げ・・・・・・》 レッドチームにとっては本当に予想外の方向からの攻撃である。編隊は一瞬にして総崩れになった。 事態は自然と乱戦にもつれこむ。 《何が起こったの?》 《エルゴだ、エルゴ飛行隊がやった!》 事の変化を敏感に察したブルーチームの本体も、レッドチームの真っ只中に突入した。 ここにおいても戦力差は三割を若干越えていた。だがこと戦意に関しては、ブルーチームに圧倒的に分があった。 団体戦闘も、乱戦となると分からない。こと空中戦となると多くのランダム要素により、物量の優位力が弱まるのである。 広大なフィールドの中で、ただ一点だけが戦場と化した。 マイティは飛び交う無数の神姫と戦闘機に混乱し始めていた。 戦闘機は間違いなく敵だとわかる。 だが、神姫はどちらなのだろう? IFF(敵味方識別装置)が故障することはほとんど無いが、いちいち確認する暇が無い。かといってじっくり観察していたらあっという間に撃墜される。とりあえずミサイルロックオンができるのが敵なのだと単純に考えようとするがそれでも撃ったあとのミサイルが味方に当たる危険があった。ただの空中戦ではない。これは神姫同士の戦いなのだ。なだらかな線を描いて飛ぶ航空機的な機動だけではない。直角に曲がったり、いきなり反転して飛んだり、いろんなことができるのかもしれない。 だが思ったほど、マイティはそれを心配する必要は無かった。そういう独特の機動が上手にできる神姫がめったにいなかったのである。それをやろうとしたある神姫は、ほとんど空中静止に近い状態となり、ミサイルの良い的となって墜ちていった。 それらの機動が実は非常に高度な技であることに、マイティはしばらく気がつかなかった。何しろ自分はさっきミサイルを撃ち落としたときに、反射的とはいえ当たり前にやったのである。また飛行隊のほかの面々の何人かも、同じようにやっていた。 だから、誰でもできるものなのだと錯覚していた。と同時にマイティは、いつの間に自分がそんな技を見につけていたのかとちょっと得意になった。 『うぬぼれるなよマイティ。鼻を折られるぞ』 すると、そのことをちゃんと察したマスターに戒められた。マスターに隠し事はできないのだ。 ちょっと恥ずかしくなりながらも、マイティは集中することを怠らず、敵を追う。こういう乱戦で誤射はだいたい仕方が無いが、ブルーチームはそうも言っていられない。戦力差は開いたままだ。なるべく損失を抑えながら戦いたかった。勢いに乗りつつ、慎重に。 確実に差を減らしていけた。神姫はともかく、この乱戦下において戦闘機など敵ではなかった。そもそも真正面からぶつかり合うことが分かっている状況でカードを使った故に、現れた戦闘機はすべてMig-31Dなのだった。Mig-31Dとは超高速の一撃離脱に長けたミサイルプラットフォーム的な戦闘機(の2036年現在における改修型であるD型)で、格闘戦性能などほとんど無い。つまり全然乱戦向きではないのである。後ろについて、ロックオンもそこそこにミサイルなりマシンガンなり撃てば容易に撃破できた。もはや物量の優位は揺らぎ切っていた。ブルーチームは相手の神姫は極力無視して、戦闘機ばかりを狙った。 B3に乗った支援部隊はこちらに漏れ出した敵をあしらいつつ、蚊帳の外で状況を俯瞰し飛行隊に通達していた。 《こちらレッグス1、順調に差を縮めていけてます。このままだといいのですが》 《援軍到着まではあとどれくらいですか》 《あと二十二秒です》 「もうそんなに?」 夢中で追っては撃ち避けては撃ちを繰り返していたので、マイティはあっという間の時間の経過に驚いた。そして驚いている間に二十二秒が経ち、こちらの援軍が到着した。 乱戦という空戦において最も困難な状況に対応した、最高の戦闘機部隊が。 《こちらAWACS、コールサインは“スカイアイ”だ。お嬢さんたち、聞こえるか?》 1245時 援軍到着 ブルーチームの誰も、まさかNPCの援軍から話しかけられるとは思いもよらなかった。 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/115.html
【なぜなに武装神姫、そのよん】 「ネタが尽きてくるんじゃないかと微妙に不安な今日この頃。こんにちわ、みさにゃんです」 「ねここが燃え萌えできればそれでいいのだー!」 「いやまぁ、そうなんだけどね……あはは。さて今回はこちら」 『ねここって何でそんなに猫なの?』 「え゛ー」 「えーって、十分猫よ。まぁそれは置いといて。 神姫に個性はあると1回目で言いましたが、機種ごとにある程度大まかな性格の傾向は存在します。 天使型であればおしとやか、悪魔型であれば小悪魔的とでもいうような感じでしょうか。 それで猫型は大抵猫っぽくプリインストールされてる場合が多いようです……そのまんまです。 ちなみに例外はいくらでもあるので、貴方の所に届く神姫は標準から離れた凄い性格をしているかもしれませんね」 続く 上へ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2700.html
夏特有の熱い日射しの中、公園にさしかかった辺り。妙にツヤツヤとした華凛と、すっかりくたびれた私が歩いていた。 結局あの後、華凛に身体の隅々までいじくりまわされた。もう、ゴールしても、いいよね? 「いや~、これでまた樹羽と仲良くなれた気がするわ♪ 樹羽の顔もエロかったし♪」 「……おやじ臭い」 「いいじゃん、女の子同士なんだし♪」 「よくない」 「これで今夜のオカズには困らないわね!」 「私、美味しくない」 「大丈夫、美味しく食べるから」 「意味がわからない」 「樹羽はしらなくてもいいの! むしろ知っちゃいけないの!」 「……?」 知るな、と言われたら気にはなるが、ここは素直に引いておこう。なんだか嫌な予感がする。私は話を切り替えた。 「それで、なんの筐体が入ったの?」 「神姫のヴァーチャルバトル用の筐体だよ!」 華凛は興奮気味に声を高くする。それほど興味があるんだろう。 「今まで、首都圏のゲーセンにはあったんだけど、地元には無かったんだよね~。これでくすぶってたマスター連中も暴れだすよ~?」 「ふ~ん……」 「ふ~んって、興味ないの? 神姫」 「神姫は知ってる。でも詳しいことは知らない」 そう言うと、華凛は胸をのけぞらせる。自慢したいのだろうか? 「そう言うだろうと思って……はい!」 華凛はバッグの中をガサゴソと探り、一冊の本を取り出した。武装した神姫のシルエットが表紙の少し厚い本だ。 タイトルは『神姫の今昔』。 「そこの木陰で読んでてよ。あたし、飲み物買ってくるから」 「あ、ちょっと……」 私の制止も聞かず、華凛は行ってしまった。一人残された私は、仕方なく木陰に移動。少し考えてから、本を開いた。 2030年、異様とさえいえる加速度で発達した人類の科学は、人の脳というシステムそのものを全て量子コンピューターにコピーするという半ば強引な方法で、人間とさして変わらないレベルの思考を可能にしたAIを作り出した。このAIは以後改良を重ね、様々な形でロボットに組み込まれていくことになった。体長15cmの高性能小型ロボット。そう、2031年に発売され後に武装神姫と呼ばれる彼女達にもである。 2040年、人はついに電子の海に人の精神を送り出すことに成功する。『神姫ライドシステム』と名付けられたそのシステムは、人間の意識を機械の体である神姫の中へ、つまるところCPUという仮想空間の中に繋げることを可能にした。さらにはこれを応用し、神姫を介して別の電脳空間への接続まで実現したのである。20世紀末などにSFで描かれていた『ネットダイブ』などと呼ばれる仮想空間へのリンクを可能にした画期的な技術。だがこのような技術でさえ表立った注目をされないほど―― 「えい」 突然、頬に冷たい物が押し当てられる。それがペットボトルと気付くのに時間はかからなかった。 「冷たい」 「ずいぶん真剣に読んでたわね。やっぱり興味あるんじゃないの?」 「……ない」 私は本を閉じて、ペットボトルを受け取った。 「そう? 妙にはまってた気がしてね」 「……本はじっくり読む方」 不覚にも、華凛の接近に気付かないほどに読みふけっていたことは確かだ。 「ふ~ん、まぁいっか。まだ読む?」 「ううん、もういい」 私は本を華凛に返す。華凛は本を受けとると、バッグの中にしまった。 「じゃ、行こっか」 「うん」 木陰から出る。また熱い日射しが照りつけてくる。 神姫……か。 第一話の1へ 第一話の3へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1834.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ インターミッション06:武装神姫 閃光が奔り、ターゲットは蒸散して果てる。 焦げたようなイオン臭が去ると共に、周囲に光が戻って来た。 否。 暗がりが戻って来た、と言うべきか。 白い闇。閃光が消え失せたのを確認し、京子はゴーグルを外した。 「流石です、京子さま。素晴らしい威力だと思います」 世界初のMMSである“彼女”はそう言って微笑む。 「……後はコストパフォーマンスかな? 出来れば、一射当たり10円位で納めたいわね……」 MMSが神姫としてホビーバトルをする事になれば、当然それはユーザーに浸透させなくては話にならない。 KemotechもFrontLineも、遊びや慈善事業でこの企画を立ち上げた訳ではないのだ。 商業である以上、その座は万人に解放されなくてはならなかった。 「……問題は放電管のチャージロスね、コレを押さえられれば実費で7円切ると思うのよ……」 「収束効率を落として、蓄電量を下げるのは如何でしょうか? ……私のように汎用動作で射撃するのではなく、専用のプログラムを用いれば命中精度はもう少し落としても通用する筈です」 「やっぱそれっきゃ無いか……」 本来“彼女”は射撃を考慮したプログラムを有しては居ない。 目視での測量と、計算による非効率な射撃方法では、そろそろテストの方も限界だった。 「……お~う、やっとるね。京子ちゃん」 「……芹沢さん」 「おはよう御座います、芹沢教授」 芹沢に頭を下げる“彼女”の言葉に時計を見れば、時刻は既に朝の10時。 寝る前にちょっと、のつもりで運用試験を始めたのは既に半日前の事だった。 「……眠いわけだ……」 京子は欠伸を噛み殺して伸びをする。 「んで、どうよ? LC1の調子は?」 芹沢の視線の先には試射の的となり、半ば消失しているターゲットボードの群れ。 「……どうやら、実用まで漕ぎ着けられそうじゃねぇ?」 「はい。私もネットで調べてみましたが、最先端の軍用レーザーにも無い画期的な機構が、いくつも盛り込まれているようです」 「……まあ、出力が低いから出来ることも多いんだけどね……」 軍事転用されそうな技術は思いついても使わないようにしていた。 真紀は、きっとそれを望まないから……。 「……所で芹沢さん。FL12の試作品って、もうロールアウトしたんですか?」 「ん? 確か先週試作品が出来て、起動実験をしてた筈だけど? ……まだCSCは載せずに従来型AIの有線接続だけどね」 ふむ、と京子は考え込んで。 「……芹沢さん。FL12の試作機、2,3機貰えませんか?」 「おチビちゃんでは不満かね?」 「……レーザー砲の他にも、幾つか装備のテストをしたいんです。ブースターのテストもしたいから、出来れば4機あるとベストですね……」 「ブースター?」 首を傾げる芹沢。 「……教授。京子さまの力作を目にしたら、きっと驚きますよ」 くすくすと、顔を綻ばせ“彼女”が微笑む。 「…………」 京子がパソコンから図面を呼び出すのを見ながら、芹沢の心境は複雑だった。 (……やれやれ、ワシ形無しじゃね。……つーかもう用済みっぽい?) 自分達が年単位で築きあげて来たものを、この姉妹はいともあっさり超えてゆく。 それは、嬉しくもあり、悔しくもある不思議な心境だった。 「で、京子ちゃんは何を造ったんじゃね?」 「……羽根です」 その二日後。試作型神姫FL12は飛行型MMSとして再調整を受ける事となる。 そして程なく。 MMSの営業方針は、武装神姫としてのホビーバトルに重点が置かれることとなった。 ◆ CSCに伴う記憶障害には大きな特徴があった。 それは、記憶領域の拡大と、思考の加速、並列化。 言うなれば、愛用のパソコンからごっそりとデータが消失したようなもので、CSC患者の脳には使用可能な空白が大量に出来るのだ。 脳の処理能力は、当然のように常人を凌ぐようになる。 それは、先天性であれば『天才』と称される現象であった。 そして、その天才性はCSCの深度と比例する。 例えば。 軽度で回復してしまった少年は、常人でも珍しくない程度の天才性を持ち。 重度で固着してしまった少女は、もはや神託とでも称する他無い天才性を発揮した。 そして、自らも気付かぬ内にCSCに罹患し、一月かけて独力で回復したその少女は、世界最先端の技術を扱えるようになっていたのだった。 ◆ 「……武装神姫」 「はい、真紀さま。今後MMSは武装神姫としてバトルを中心とした展開を行っていくそうです」 真紀は、“彼女”の報告に少しだけ表情を歪めた。 「……」 「? 主よ、如何なさいましたか?」 真紀を主と仰ぐ“彼女”が、首を傾げて真紀の顔を覗き込む。 その時、病室の扉が慌しく開けられた。 「あ、真紀。私、これからちょっと研究室に行って来るね。……試作品のレーザーソードが出来たんで、カトレアに届けてくるわ」 「カトレア様ですか」 フロントラインとケモテックの、共同研究室に配置された4“人”の神姫。 その長女が、ラン科植物の名を冠する、格闘武器試験用の神姫だった。 「……あの、姉さん……」 「ん? 何、真紀? バスの時間あるから手短にね」 「…………あ、…………ん、……な、なんでも、無い……」 「……? それじゃあ行って来るけど食事、ちゃんとするのよ? 食事残すと香苗さん(看護婦さん)が心配するわよ?」 「……ん」 真紀が頷いたのを見て、京子は走り去った。 ◆ (私にも、真紀の為に出来る事がある) 京子は走る。 (私も、真紀を喜ばせる事が出来る) 脇目も振らずに走る。 (武装神姫が世界に広まれば、それは真紀の想いが世界に広がることになる) 振り返る事も無く。 (私が強い装備を作る事で、それを手伝える!!) 残されたものに気付く事も無く…。 ◆ 「主よ、宜しいのですか? この計画は、京子さまの協力が不可欠と存じますが……」 「……いいわ。姉さんは……、そうね……」 真紀は、病室の窓から病院前のバス停を見る。 「……姉さんは」 そこでバスに駆け込む京子の姿を瞳に映したまま。 「……姉さんには、敵になってもらうわ」 そう、呟いた。 インターミッション07:おしまいの日につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る 最近のプラモは凄いですね。 思わずガンダムスローネ3種買って、誰もが思いつくコンパチスローネ作ったさ。 色も青で塗り直して、ご満悦。 ……ま、ALLガンダムマーカー仕上げですが何か? AC4に嵌まっている身としてはアーリヤが欲しかったのだけど売り切れで入手できず。 明日当たり遠出してでも手に入れようかと考え中。 ALCでした。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/230.html
登場する人&神姫 浅見 秋人 (あさみ あきひと) 会社員 両親は離婚。母親に姉弟ともに引取られるがその後事故により他界。 父方の元には行かず姉弟二人暮らし。 恐ろしく切れ味の鋭い自家製刃物を神姫に持たせ、バトルに参加している事で一部のオーナーからはソードマイスターと呼ばれている。 バトルは勝つためではなく、神姫達の自由意志に任せて参加。 ハウリン<冬花>を引き取ってからは参戦していない為、神姫達のリーグ順位は落ちる一方だが本人達は気にもしていない。 基本的に事なかれ主義。そして無駄に凝り性。 浅見 弥生 (あさみ やよい) 喫茶店<日々平穏>マスター 秋人の姉 母親から引き継いだ喫茶店を経営している。 母の再婚相手、浅見宗次の連れ子だった秋人を離婚後母が引取りまもなく他界。 秋人が宗次を敬遠していたため父方には戻らず姉弟二人で生活していくことを選ぶ。 血の繋がりはなく、その事は秋人は知らない。秋人を姉弟以上の感情で見ている。 ねここの大ファン。そのため同型のマオチャオタイプを購入。ただし機械音痴。 何かあるたび秋人に泣きつく。最近やっとテレビの番組予約が出来るようになる。 おっとりした性格で小柄な可愛い系の女性。しかし芯は強い。 ハウリン 冬花 (とうか) マスター 秋人 ファースト登録(以前の登録がそのままの為) これまでの戦闘経験からA(秋人の調整した戦闘用ボディ使用時)~B+(ノーマルボディ使用時)の戦闘能力を持っている。 物静かな清楚な女の子。 アーンヴァル 春香 (はるか) マスター 秋人 セカンド登録 遠近共にバランスの取れた戦闘をする。特徴が無いのが特徴。 初期の頃からバトルに参加していたためセカンドにいるが実力はサードクラス。 面倒見の良いお姉さんタイプ。 ストラーフ 鈴夏 (すずか) マスター 秋人 セカンド登録 中~遠距離の射撃戦を好んでする。 近距離になると秋人から貰った守り刀を躊躇無く使う。この子が折りまくっていたので秋人の刃物は進化し続けたとも言える。 秋人に関してちょっと嫉妬深いのが玉に傷。 マオチャオ ネム (ねむ) マスター 弥生 サード登録 デビューしたて 弥生がねここのファンなのを知ってバトルに参加。ただしマスターが弥生なので的確な指示が出せる訳も無く敗戦続き。唯一、春香とのバトルにて1勝をあげる。 目標はねここと対戦して勝つこと。 基本的に楽しければ何でもOK。 感情が高ぶると「にゃー」としか言えなくなる 春夏秋冬TOPに戻る TOPぺ-ジに戻る